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LLMからAIエージェントへ

AIシステムがどのように進化してきたかを解説します。単体のLLMから始まり、Compound AIシステムを経て、現在注目されているAIエージェントへの発展過程を追っています。各段階の特徴と限界を説明し、特に「Reason-Act-Observe」のサイクルで動作するAIエージェントの可能性と、それが最適に活用できる場面について論じています。

通りすがりのラマ🦙
20 April, 2025

はじめに

近年、ChatGPTやClaudeといったAIが日常生活に浸透してきました。これらはLLM(大規模言語モデル)と呼ばれる技術を基盤としています。現在、このLLMはさらに進化し、「AIエージェント」という新たな形態へと発展しつつあります。この進化は技術的な進歩にとどまらず、人間とAIの関係性そのものを変えようとしています。

LLMを使ったシステムの変遷

AIシステムは主に3つの段階を経て発展してきました:

  1. 単体のLLM
  2. Compound AIシステム
  3. AIエージェント

それぞれの特徴と発展過程を見ていきましょう。

LLMの可能性と限界

LLMは膨大なデータから学習し、人間に近い文章を生成できるようになりました。しかし、いくつかの限界があります:

  • 知識の限界: 学習データ以上の知識は持ちません。最新の出来事や学習していない事象に対する知識は持ち合わせていません。
  • 専門知識の課題: 企業の社内用語や特定分野の専門知識への対応にコストが掛かります。新たな知識を取り入れるためにはファインチューニングが必要になり、多大なコストと時間を要します。

具体例として、「私の会社の福利厚生制度について教えて」や「先週の部門会議の内容を要約して」といった質問をLLMにしても、そのような個人や組織固有の情報は学習データに含まれていないため、適切に回答することができません。

これらの課題を解決するために登場したのが「Compound AIシステム」です。

Compound AIシステムの概要

Compound AIシステムは、LLMと既存のシステムやデータベースを組み合わせることで、LLM単体では対応できない問題に対処するアプローチです。

代表的な例が「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」です。これは基本的に、「不明点があれば、資料を確認してから回答する」という方法です。具体的には:

  1. ユーザーからの質問を受信
  2. 関連情報をデータベースから検索
  3. 検索結果を参考に回答を生成

これにより、LLMの知識範囲を拡張できます。企業の内部文書を検索対象に含めれば、社内特有の質問にも対応可能になります。

Compound AIシステムの課題

Compound AIシステムにも制約があります。最も顕著なのは「特定のタスクに特化している」という点です。

例えば「休暇日数に合わせた旅行プラン提案システム」では:

  1. ユーザーの質問を受信
  2. 人事データベースからユーザーの休暇日数を取得
  3. その日数に適した旅行プランを提案

というプロセスで機能します。このシステムに「投資アドバイス」を求めても適切な回答は得られません。なぜなら、このシステムは旅行プラン提案という特定の目的で設計されているからです。

では、多様な質問に対応できるCompound AIシステムを構築するにはどうすればよいでしょうか。一つの解決策は、「振り分け役」となるコンポーネントを前段に配置することです。このコンポーネントがユーザーの質問内容に応じて適切な処理経路に誘導します。

そして、この「振り分け役」としてLLMを活用したのが「AIエージェント」です。

AIエージェントの特徴

AIエージェントは、LLMの「推論(Reasoning)能力」の向上によって実現しました。AIエージェントは以下の3つのステップを循環的に実行します:

  1. Reason(推論)

    • 問題を分解する
    • 解決策を計画する
  2. Act(行動)

    • 計画を実行する
    • 必要なツールやAPIを利用する
  3. Observe(観察)

    • 実行結果を検証する
    • 結果が期待通りでなければ計画を修正する

この動作パターンは、心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した「速く考え、遅く考える(Thinking Fast and Slow)」という人間の思考プロセスと類似しています。

  • 速く考える(Think Slow): 直感的な応答(LLMの直接的な回答)
  • 遅く考える(Think Fast): 論理的・計画的な思考(問題分解と計画立案)

AIエージェントの適用範囲

AIエージェントは大きな可能性を持ちますが、全ての問題に最適というわけではありません。

  • 単純な問題: 明確に定義された単純な問題には、従来のプログラミング手法の方がブレなく回答できるので適しています。
  • 複雑な問題: 複数のタスクを組み合わせる必要がある問題や、幅広いユーザー質問に対応する場合には、エージェントアプローチが適しています。

AIエージェントは状況に応じて適切に活用すべき技術と言えます。

まとめ

LLMからCompound AIシステム、そしてAIエージェントへ――AIは段階的に進化しています。この進化により、AIはより柔軟かつ効果的に問題解決ができるようになりました。

現在はAIエージェントの可能性の初期段階にあります。今後、AIエージェントがどのように発展し、私たちの生活や仕事をどう変革していくのか注目されます。

参考資料

https://www.ibm.com/jp-ja/think/topics/ai-agentshttps://www.ibm.com/jp-ja/think/topics/ai-agents

通りすがりのラマ🦙

このブログでは個人開発で得た知見や興味のあるテクノロジーに関する記事を執筆します。 日々公開されている情報に助けられているので、自分が得た知見も世の中に還元していければと思います。 解決できないバグに出会うと、草を食べます。🦙🌿 経歴: 情報工学部→日系SIer→外資系IT企業 興味: Webアプリケーション開発、Webデザイン、AI 趣味: 個人開発、テニス